ぶんげいブログ@津山高専文芸部

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崖の上にて
                                    
「……だらしのない顔」
不意に聞こえてきた声に体を起こす。
「あっ、すみません。聞こえましたか」
声のする方に目をやると、少女が一人立っていた。歳は十三くらいだろうか。
「これだけ静かだと、いやでも聞こえるんじゃないかな」
「……それもそうですね」
少女は特に表情を変えず淡々と返答してくる。
「ところで、そんなに私はだらしない顔をしていたかな?」
「根にもってるんですか?」
「違う違う。単純な興味だよ」
「ふーん……」
疑いの目が向けられる。根に持っていたらそんなにダメなのだろうか。
「……そうですね、幸せそうに目を細めながら口をあんぐり開けてたおじさんの顔は凄くだらしなく見えましたが?」
少女が言う自分がしていた表情を想像し、苦笑する。 
「そ、それは確かにだらしないな……だが、まだ『おじさん』と呼ばれるような年じゃないとは言いたいかな」
「口調と顔……特にその髭では『おじさん』にしか見えませんよ?」
「私はれっきとした二十六才の『お兄さん』だ」
そう歳を告げると、少女は明らかに呆れた顔で呟く。
「……二十六でも十分おじさんでは」
「いいや違うねおじさんっていうのはね、年齢でいえば一般的に三十後半からであって君らみたいな若い子達の感覚とは大きく違って」
「分かりました。分かりましたからそう熱くならないでくださいお兄さん」
「分かればよろしい」
少女の呆れ具合が増しているが、気にしてはいけない。
「ところで」
「ん?」
「何故こんな崖の上へ?柵もなく危ないですしなによりここは地元で」
「どう呼ばれているか、どういう扱いなのかは知ってるし、知っててここにいるよ」
少女の言葉を遮り、一呼吸置いてから質問に答える。
「まぁこれと言って用はないのだが……強いて言えば昼寝かな」
「ひ、昼寝ですか……?」
「そう、昼寝だ。まぁここしか行けないってのもあるがここは見晴らしがいいし、風もよく通って快適だ。寝るのにも居るのにもうってつけだ」
「た、確かにそうですが……」
なにやら回答にご不満の様だが、本当にそうなのだから仕方がない。
「そういう君は何故ここに?」
そう問うと、少女は眉をしかめ躊躇った。
「……それは」
「あー、話づらそうだしやっぱりいいよ」
勇気を出したのに遮られたからだろう、滅茶苦茶嫌な顔をされた。突き刺さるような視線が痛いのなんの。
「す、すまん。私はただ気持ちよく話したかったから言いたくない事を言わせるのはどうかなと思って」
「……いいですよ――って私と……話す?」
「あぁ、これもなんか縁だろうし、ね。君の用に差支えなければだけど」
「……今日はもう、止めておきます。折角ですし話しましょう」
「ありがとう。じゃあ……そうだな。君は神を信じるかい?」
「……宗教の勧誘でもするのですか?」
「そういうわけじゃないよ。私は無神論者でね、もしいると信じているのなら何故信じているのか意見を聞きたくて」
「なるほど……」
少女はそう呟き視線を下げた。が、すぐに顔を上げ口を開く。
「……そうですね、信じていない。というか信じたくない、でしょうか」
「……『あまりにも不平等だから』、かい?」
「よくわかりましたね。それと『あまりにも理不尽だから』、です」
「何故そうなのか、聞いていいかな?」
「……平均でなければ、超えても足らなくても蔑まれ疎まれる。皆が皆同じであることなど不可能なのに」
「それで、『もし神がいるなら、神が世界を作ったのなら、何故こんな不平等に、理不尽なのか』、か」
「……そういうことです」
「ちなみに君は前者と後者、どちらかな?」
「――ッ」
やっぱりここがネックなのだろう。そして多分ここに来た理由でもある。
「また、言いづらい事を聞いてしまったね……すまない」
「いえ……大丈夫ですから。気にしないでください」
「ありがとう。……とはいえ話題を変えようか。そうだな……『人の生きる意味』なんて如何かな?」
「…………さっきからその難しいチョイスはなんなのです?」
「いやぁ、考える時間が無駄にあると、こういう事を考えるのが楽しくてね。で、どうなんだい?」
「……ちょっと待ってください」
少女はそう言いまた視線を落とす。今度はすぐは口を開かないだろう。
「あぁ、構わないよ。考えてる表情を見るのも楽しいからね」
微笑みながらそう返答したら、何故か侮蔑の目が向けられた。
「……通報してもいいですか?」
 あぁ、そういう事か。
「別にやましい気持ちはないから勘弁して頂きたいな」
「……そうですか」
納得したのかどうかは分からないが、少女はまた考え始めた。
私は先の宣言通り、少女の顔を眺める。
視線が気になったからなのか、少女が口を開くのは予想したより早かった。






「でもその考えだと一生涯――って随分くらいな、今何時だ?」
そう聞くと、少女はポッケトから携帯を取り出した。
「……十九時、ですね」
「うわっ、思ったより大分遅いな」
「かなり話し込んでましたからね……」
「そうだな……そろそろ帰った方がいいんじゃないのか?」
「……そう、ですね。帰ります」
「気を付けてね」
少女は帰路に着こうと立ち上がり、私に背を向け歩き始めた。
「あぁそうだ」
そんな少女の背に、声をかける。
「……なんですか?」
「幽霊って、信じてる?」
振り向いた少女の顔は、完璧な呆れ顔だった。
「……それをこの状況で聞くのですか……」
「すまないすまない、これはちょっと狡かったね」
笑いながら言う私を一瞥して、まったくですよ、呟きながら少女は再び帰路に着いた。
「さて、それじゃあまた寝るかな」
相手がいる訳ではないが、なんとなくそう呟き横になる。
今日も星が綺麗だ。目の前に広がる夜空を眺めてから、私はそっと目を閉じた。






石が落ちる音で目を開く。
また、少女が立っていた。ただ、立っている場所と痣がいくつも出来ているという点が、昨日と違っていた。
「その先には、なにもないよ?」
 私の声に反応してだろう。少女がこちらを向く。
「……知っています。だからここに来て」
「違う、『起こした行動の更に後』の話」
「……それを知っているあなたがこうした形で存在しているのに、なにもないと?」
「そこは神様のきまぐれかなにかだろう」
「……無神論者がなに言ってるんですか」
「それもそうだな」
互いに、笑う。
「……止める気は、ないよなぁ……」
「……はい」
「望みは、解放?」
「……はい」
「……そうか」
同じ道を辿ったから、止められない。同じように重荷から逃げた者に止める権利はなどありはしない。
「……ありがとう」
「ん?」
「昨日は楽しかった。時間を忘れてまで話したのは、多分初めてだから」
「この見た目が、幸を奏したかな」
「……そうですね。あなたが普通なら、多分話せてません」
少女はそう言い、一度微笑んでからこちらに背を向けた。
「……さよなら、賢い少女」
「はい、さようなら」
そう言って彼女は
「……幽霊のお兄さん」
崖へと、飛んだ。





「……暇だな」
あてもなく呟く。暇になると独り言が増えるのは何故なのだろう。
先日までは崖周辺をうろつく警官を観察したりちょっかいだしたりして暇つぶし出来ていたのだが、もう調べ終えたらしく来る気配すらしない。
(こういう時はあれだな、寝るに限る)
実際に寝ているのかは自分でも分からないが時間が早く過ぎるしきっと寝ているのだろう。きっとそうだ。
 そんなどうでもいいことを考えながら目を閉じた時
「だらしのない顔」
 声が聞こえた。
「まだそんな顔はしてないはずなのだけど?」
「それはあくまであなたの主観でしょう?」
「……それもそうだ」
 反論出来ずに思わず苦笑してしまう。
「ところで」
「うん?」
「結局私に、あなたがないと言った『あの先』があったわけですが、これはどういうことでしょう?」
「……そうだな」
多分私は今、ここ十年で最高に高揚している。
「今日の議題はそれにしようか」
これからはきっと、毎日が楽しいだろうから。
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